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姥捨
上島 浩(1985年再出版より)

【1】
 子は、涙を流しながら母を捨てた。
「わっ、何するんや、かわいそうなことしたるわ」
 空で円盤の宇宙人が、つぶやいた。しばらくすると、その姥からテレパシーで、亡命を申し出てきた。
「たすけてくんろ」
 そういう声に、部下の宇宙人は隊長に、
「どうします?」
 とたずねた。
「うむ……」
「あのおばあさんを、たすけるんですか?」
 隊長は、さらに考えたあげく
「よかろう」
 と答えた。
 かくて姥は、円盤に入ることになった。

【2】
 そんなある日。
「わっ……来たまえ」
 隊長は、あわてて部下をよび出した。
「何の御用でしょう」
「よくみろ。こういういたずらを、いったい誰がしたのだ」
 と大切な宇宙航海地図の上にのっかっている物体を指し示してたずねた。
 部下は目を丸くして、それを見て言った。
「何ですか、それは?」
「ウンコだ」
「ひっ」
 部下はあとずさりした。
「お前がしたのだろう」
 というのに対して、首をちぎれんばかりに横に振って、
「めっそうも、ございません」
 と否定した。
「じゃあ、いったい誰が……」
 二人は、船内を見まわした。そして、片すみに、うずくまっている姥に目がとまった。彼女は、ただこっちを見て、にんまりと笑っていた。
「気色わるいやっちゃな」
 隊長は、つぶやいた。

【3】
 隊長は、頭をかかえていた。姥をのせたことに後悔していたからである。というのは、それ以来、円盤内に奇怪な出来事がヒン発するようになったからだ。
 まず、姥には、徘徊するクセがあった。とくに夜になると、船内を歩きまわるのである。このことは、とくに警備員がいやがった。いやがったというより、むしろノイローゼにもなりかかっている。真夜中に、円盤内を警備しているとき、姥にばったり出会うのだ。警備員も、こわいこわいと思いながら見まわっているので、そのときのショックは、ひとしおである。
 そして、警備の当番のことで、ケガ人まで出るような、争いがおきるようになったのだ。
 また、メカをいじくりまわしたり、マイクを持てば、歌い出したりもするのだ。
 つい先日も、真夜中に炭坑節がきこえてきたのだ。
 それに、コックピットにしのびこみ、姥はカジをくるくるまわして楽しんだり、高性能のロボットに屁をかまして、完全に狂わせたり、またさらには、船員が小便しているとき、うしろから、わっと驚かしたりもした。

【4】
 船内会議の結果、姥には円盤をおりてもらうことにした。
 いやがる姥を、やっとの思いで足をもって無理やり、出口のところまでひきずり、一、二の三で、外へほうり出した。そして出口をパタンとしめたのである。

【5】
 円盤内には、再び平和がもどった。
 皆は、よかったと口々に言った。
 しかし、時間がたつに従って、皆の顔に笑いがなくなっていることに、気がつくようになったのである。

初出/「ふぁんしい」8号
再出/ふぁんしい設立8周年記念「天翔」(1985.7.1)


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